ポルシェとベンツの共演:500Eポルシェラインが誕生した驚きの舞台裏

ポルシェとベンツの共演:500Eが誕生した驚きの舞台裏
ポルシェとベンツが手を組んだ奇跡のセダン
1990年代初頭、自動車業界に一台の異色な高級スポーティセダンが登場した。それがメルセデス・ベンツ500Eだ。
普通のセダンに見えるその車体には、5.0リッターのV8エンジンが搭載され、驚異的なパワーを秘めていた。しかし500Eの最大の特徴は、そのボディに隠されていない。メルセデス・ベンツの車でありながら、開発と製造にポルシェが深く関わったという事実こそが、この車の最大の魅力なのだ。
なぜ競合とも言えるドイツの二大自動車メーカーが手を組んだのか?
そこには、両社の思惑と当時の状況が複雑に絡み合う、知られざるドラマがあった。
500E誕生の背景:二社の思惑が交差した瞬間

ポルシェのツッフェンハウゼン工場
1980年代後半、メルセデス・ベンツとポルシェはそれぞれ異なる課題に直面していた。メルセデス・ベンツは高級車市場での地位を確立していたが、スポーティなイメージに乏しいという課題を抱えていた。一方のポルシェは、深刻な経営危機に陥っていた。
「当時のポルシェは、輸出事業からの収益の減少、生産の落ち込み、ほぼすべてがマイナスの主要業績評価指標により、経営危機に直面していました」
928などの水冷モデルが思うように売れず、ポルシェの工場には余剰生産能力が生まれていた。そんな中、メルセデス・ベンツはW124シリーズ(後のEクラス)に高性能バージョンを追加したいと考えていた。しかし、ジンデルフィンゲン工場はすでに生産能力の限界に達していた。
この二社の思惑が交差したとき、奇跡のコラボレーションが始まったのだ。メルセデス・ベンツはポルシェに500Eの開発と生産を委託することを決断した。1988年、両社は開発契約を締結。ポルシェ内部では「プロジェクト2758」という呼称が与えられた。
この契約は、経営危機に瀕していたポルシェにとって救世主となった。ポルシェはメルセデス・ベンツから開発費と生産委託費を得ることで、経営を立て直す貴重な機会を手に入れたのだ。
一方、メルセデス・ベンツにとっては、ポルシェの持つスポーツカー開発のノウハウを活用し、スポーティなイメージを獲得する絶好のチャンスだった。
両社の利害が一致したこの瞬間が、自動車史に残る名車を生み出す原動力となった。
異例の製造工程:二つの工場を行き来する500E
500Eの製造工程は、自動車製造の歴史の中でも極めて異例のものだった。通常、一台の車は一つの工場で製造されるものだが、500Eは二つの工場を何度も行き来しながら製造された。
まず、メルセデス・ベンツのジンデルフィンゲン工場でボディパーツが生産され、それがポルシェのツッフェンハウゼン工場に送られた。ポルシェはこれらのコンポーネントと、専用のフロントフェンダーなど社内で製造された部品を使用して、500Eのボディを組み立てた。
その後、車体はメルセデス・ベンツのジンデルフィンゲンに送り返され、そこで塗装が行われた。塗装後、再びツッフェンハウゼンに戻り、最終的な組み立てとエンジンの取り付けがポルシェによって行われた。
一台の製造プロセスには実に18日もの時間がかかり、それぞれの500Eはツッフェンハウゼンからジンデルフィンゲンまで、2回も移動することになった。

500Eの製造工程
この複雑な製造工程は、500Eの前期モデルに限られていたという説もある。後期モデルのE500は、すべてメルセデス・ベンツの工場で生産されたとも言われている。
なぜこのような複雑な工程が採用されたのか?
それは、500Eが通常のW124とは大きく異なる構造を持っていたからだ。V8エンジンを搭載するために、ボディの前半部分はほぼ作り直す必要があった。このような特殊な改造を行うには、少量生産に強いポルシェの工場が適していたのだ。
また、当時のポルシェには旧ロイター社の工場があり、この工場は休止中だったため、500Eの車体を組み立てるラインを設置するのに十分なスペースがあった。1955年末までは、ポルシェはこの工場でポルシェ356のボディ製造と組み立てを行っていた歴史もあった。
エンジン:500SLの心臓を移植した怪物
500Eの心臓部は、当時のメルセデス・ベンツ500SL(R129型)から移植された5.0リッターV型8気筒エンジン「M119E50型」だ。このエンジンは、最大出力330PS/5,700rpm、最大トルク50.0kgm/3,900rpmという、当時としては驚異的なパワーを発揮した。
W124シリーズに使われていたエンジンは直列6気筒と直列4気筒のガソリンエンジンだったが、500Eではこの大排気量V8エンジンを搭載するためにボディの前部が大きく改良された。
このエンジンを搭載したことで、500Eは0〜100km/h加速を6.1秒でマークする性能を実現。最高速度は電子制御により250km/hに制限されていたが、それでも当時のセダンとしては圧倒的な走行性能を誇っていた。

500Eに搭載されたM119型V8エンジン
1993年のマイナーチェンジ後は、出力が325PS/5,600rpm、トルクが49.0kgm/3,900rpmとわずかに低下したが、それでも圧倒的なパワーには変わりなかった。
大排気量エンジンは重量も重たくなりがちだが、M119型エンジンは重量を最小限に抑える工夫がなされていた。それでも車体重量は1,700kgと重かったが、ハンドリング性能は高く評価されていた。
V8エンジンは左右のヘッドライトを囲む隙間からも空気を取り入れる設計となっており、エンジンの冷却性能を高める工夫がなされていた。
このエンジンは、当時のメルセデス・ベンツの最高級モデルであるSクラス(W140型)にも搭載されていた。現在、国産車でV型8気筒5.0L自然吸気エンジンを採用しているメーカーはトヨタのみという希少なパワーユニットだ。
シャーシとサスペンション:ポルシェ魂が宿る足回り
500Eの真価は、そのパワフルなエンジンだけでなく、ポルシェが徹底的にチューニングした足回りにもあった。
W124シリーズとは異なるエンジンを採用するため、ボディの前部を大きく改良したことに伴い、サスペンション部分も大きく改良された。大排気量エンジンに対応するためには、サスペンションもそれに合ったものにする必要があったのだ。
フロント部分のサスペンションはSL320(R129型)から、リアサスペンションはステーションワゴンに採用されていたレベライザーを流用。これによって加速時にも安定して、フラットな状態で速度を上げることが可能になった。

500Eの足回り
ブレーキシステムも強化され、フロントには300mm、リアには275mmの巨大なブレーキローターが搭載された。マイナーチェンジ後はさらに大きく拡張され、より強力なブレーキ力を実現した。
車体は標準のW124より56mm広く、23mm低くなっており、特にワイドフェンダーは500Eを識別する特徴の一つとなっていた。
前後重量配分を改善するために、バッテリーはエンジンルームからトランクに移設されるなど、走行性能を高めるための工夫が随所に見られた。
これらの改良により、500Eはストレートでの加速性能だけでなく、コーナリングでも優れた性能を発揮した。ダイレクトで正確なステアリングフィールは、ポルシェのDNAを感じさせるものだった。
まさに「羊の皮を被った狼」という表現がぴったりの車だったのだ。
エクステリアとインテリア:控えめな高級感
500Eのエクステリアは、基本的にW124シリーズからの大きな変化はなかった。一見すると普通のW124と見分けがつかないほど控えめなデザインだったが、細部には違いがあった。
最も大きな違いは車体幅だ。500Eの全幅は1,795mmで、W124から55mmほど広くなっていた。フロントフェンダーは大きく張り出し、迫力のあるスタイルになっていた。
また、エンジン部分の変更に伴いタイヤサイズが変更され、それに合わせてフロントバンパーも変更された。W124のヘッドライト部分についていたフォグランプはほかの場所に移動し、ヘッドライト部分にはドライビングライトが追加された。

500Eのワイドフェンダー
1993年のモデルチェンジでは、クロームグリルがいわゆる「バッジグリル」に変更され、星マークがグリルからボンネットに移動した。残念なことに、このモデルチェンジでは水性塗料も導入されたため、それまで立派だったボディワークの防錆力が弱まったという。
インテリアもW124とほぼ変わらない仕様だった。実用性を重視したレイアウトで、シートは本革やベロアなどの4種類のタイプから選べた。また車内インテリアはカラー展開が豊富で、好きなカラーを設定して自分好みの車内デザインに変えられる楽しみがあった。
最上級グレードではウッドパネルに上質な木材を採用したり、冷暖房の風量などを自動で調節する機能を標準装備するなど、高級感を演出する工夫が凝らされていた。
後席は2名がけで、乗車定員は4名だった。これは、ディファレンシャルが非常に大きく、後席の中央にシートを配置するスペースがなかったことによる。
シートはハーフレザーが標準だったが、オプションでフルレザーにすることも可能だった。生産末期には限定車が販売され、限定車は本革のシートが標準装備となった。
500EからE500へ:モデルチェンジと生産終了
500Eは1991年春に販売が開始された。当初の名称は「500E」だったが、1993年にメルセデス・ベンツ車の呼称変更に伴い「E500」に変更された。
名称変更の背景には、メルセデス・ベンツのミディアムクラスが「Eクラス」へと名称を変更したことがある。それに伴い、500EもE500という名称に変わったのだ。
名称は異なるが、500EとE500はほぼ同じ車であり、どちらもまとめて「500E」と呼ばれることが多い。500Eは1992年モデル、E500は1993年モデルだが、車のスペックについてはほとんど変わりがなかった。

後期型E500
大きく異なるのは販売価格だった。ベンツ500Eの発売価格は1,550万円だったが、E500の発売価格は1,300万円と、250万円ほど安くなった。
500E/E500は1995年4月に生産が終了するまでに、合計10,479台が生産された。すべて後席が2名がけで、乗車定員は4名だった。日本への正規輸入台数は1,184台と少なかったが、最盛期には日本に約3,000台が存在していたという。最盛期を過ぎてからは海外への再輸出も増え、現在では数が減少している。
500E/E500の生産終了後、メルセデス・ベンツはAMGとの協力関係を強化し、高性能モデルの開発をAMGに委ねるようになった。ポルシェとメルセデス・ベンツの協力関係は、この500E/E500だけの特別なものだったのだ。
しかし、この短い協力関係が生み出した500E/E500は、今でも多くの自動車ファンを魅了し続けている。
現在の評価と中古車市場:希少価値の高い名車
500E/E500は生産終了から約30年が経過した今でも、高い人気を誇っている。その理由は、メルセデス・ベンツとポルシェという二大ドイツメーカーが共同で開発したという希少性と、その圧倒的な走行性能にある。
中古車市場では、その希少性から500万円〜800万円という高額で取引されている。発売当初の価格が1,550万円(後のE500は1,300万円)だったことを考えると、価値の下落が少ないことがわかる。
特に前期型の500Eは、ポルシェの関与が大きかったことから人気が高い。しかし、エクステリアは後期型のE500が人気のため、前期型の車もほぼ後期ルックに変更されていることが多いという。

現在の500E中古車
燃費は5.4km/L〜6.2km/Lと、現代のハイブリッド車と比べると悪い。しかし、その圧倒的な走行性能や希少性から、燃費の悪さを気にしない熱狂的なファンが多い。
500E/E500を探しているが予算的に厳しい方には、メルセデス・ベンツEクラスやメルセデスAMGのモデルが代替として推奨されている。特にAMG CLAクラスやCクラスは、500E/E500と同じようなパワフル感を味わうことができるという。
500E/E500の魅力は、その控えめな外観に秘められた驚異的なパワーにある。何も知らない人は普通のEクラスと見間違えるかもしれないが、アクセルを踏めば、その違いは一目瞭然だ。
「炎の情熱 絹の優美」というキャッチコピーが示すように、500E/E500は優美な外観と情熱的な走りを兼ね備えた、まさに伝説の名車なのだ。
まとめ:二大メーカーが生んだ伝説のスーパーセダン
メルセデス・ベンツ500E/E500は、ドイツの二大自動車メーカーであるメルセデス・ベンツとポルシェが手を組んで開発した特別な車だった。経営危機に陥っていたポルシェと、スポーティなイメージを求めていたメルセデス・ベンツの思惑が一致して生まれた奇跡のコラボレーションは、自動車史に残る名車を生み出した。
500SLから移植された5.0リッターV8エンジンと、ポルシェがチューニングした足回りにより、500E/E500は当時のセダンとしては圧倒的な走行性能を誇った。0〜100km/h加速6.1秒、最高速度250km/h(リミッター制御)という性能は、今見ても十分に通用する数字だ。
控えめな外観に秘められた驚異的なパワーは、「羊の皮を被った狼」という表現がぴったりだった。何も知らない人は普通のEクラスと見間違えるかもしれないが、アクセルを踏めば、その違いは一目瞭然だった。
1991年から1995年までの短い生産期間で10,479台が生産され、日本へは1,184台が正規輸入された。現在では希少価値が高く、中古車市場でも高額で取引されている。
500E/E500は、メルセデス・ベンツとポルシェの協力関係が生んだ唯一無二の存在だ。この特別な関係は500E/E500だけのものだったが、その短い協力関係が生み出した車は、今でも多くの自動車ファンを魅了し続けている。
伝説の名車も登場から約30年が経過した今、一度その魅力を体験してみる価値は十分にあるだろう。
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